東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)174号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであること、並びに本願意匠と引用意匠とが意匠に係る物品を共通にすることは、当事者間に争いがないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決は、本願意匠及び引用意匠の構成並びに要旨の認定を誤つた結果、両意匠の差異についての認定判断を誤り、ひいて、本願意匠は、引用意匠に類似するとの誤つた結論を導いたものである旨主張するが、次に説示するとおり、本件審決の認定判断は正当であり、原告の主張は、すべて理由がないものというべきである。
成立に争いのない甲第二号証(昭和五三年八月三日付意匠登録願書及び図面)によれば、本願意匠は、別紙図面(一)に示すとおりの意匠であつて(この点は、当事者間に争いがない。)、その構成は、本件審決が基本的構成態様及び具体的構成態様として認定したとおり(上辺と左辺の両隅の各角の弧状を「かなり大きな」弧状であると認定した部分、上辺と左辺の中央部の直線部分が「わずか」であると認定した部分及び切断刃支持部の形状について、「切欠部の弧状と角の弧状とが相まつてゆるやかなカーブのわずかに先細となつた」との認定部分は除く。)、全体がやや偏平な横長直方体の上辺と下辺の両隅の各角を大きな弧状にし、上辺と左辺の中央部をそれぞれ直線状とし、右側約半分を右辺と下辺に余地を残して高さの約半分の長さの径のほぼU字状の弧状の切欠部を開口状に設け、左側半分の中央寄りには高さの約五分の一の径の巻芯部の円孔を穿ち、その周囲に同心円状に横縞模様を現し、切欠部の巻芯部寄りの上端が弧状に上辺角部に伸びて三角形のひさし状を形成しており、右辺には、切欠部の弧状部及びそれに続く短い直線部と角の弧状部及びそれに続く直線部とが相まつてゆるやかなカーブのわずかに先細となつた角柱状のかぎ状を形成し、その先端を水平にして切断刃支持部とし、前後の側板を除いて右側両側を内側先端からゆるやかな弧状面に形成して、その上面の横位置に切断刃を設けたというものであると認められ、他方、成立に争いのない甲第一号証(本件審決の審決書)添付の別紙第二及び成立に争いのない甲第三号証(本件図書の第八六六頁に記載されたNo.27の図版を拡大した写真)によれば、引用意匠は、本願意匠の意匠登録出願前に日本国内で頒布された本件図書の第八六六頁No.27の図版により現された別紙図面(二)に示すとおりの意匠であつて(この点は、原告の明らかに争わないところである。)、その構成は、本件審決が基本的構成態様及び具体的構成態様として認定したとおり(巻芯部の径が高さの「約五分の一」であるとの認定部分を除く。)、全体がやや偏平な横長直方体の上辺と下辺の両隅の各角をかなり大きな弧状にし、上辺の両隅の各角及び左辺の上下各隅の各角の弧がつながる態様で上辺の中央部及び左辺の中央部を円弧状とし、右側約半分を右辺と下辺に余地を残して高さの約半分の長さの径のほぼU字状の弧状の切欠部を開口状に設け、左側半分の中央寄りに高さの約四分の一の径の巻芯部の円孔を穿ち、その周囲に同心円状のほぼ輪状の模様を現し、切欠部の巻芯部寄りの上端が斜め直線状に上辺角部に伸びて、ほぼ直角状のひさし状を形成しており、右辺には、切欠部の弧状部と角の弧状部とが相まつてゆるやかなカーブの先細となつた角柱状のかぎ状を形成し、その先端を切断刃支持部とし、右先端部の右側面の態様については明らかではないが、その上面の横位置に切断刃を設け、材質を透明なものとしたものであることが認められる。原告は、本願意匠は、請求の原因第二の三1の(1)ないし(4)の構成からなるものであり、一方、引用意匠は、同三1の(1)´ないし(4)´の構成からなるものであつて、本件審決は、本願意匠及び引用意匠の要旨並びに構成の認定を誤つた旨主張するが、意匠は物品の外観をいうのであるから、意匠の要旨とは、視覚を通じて把握し得る当該意匠の内容を特定する事項(したがつて、当該意匠の中心的、特徴的な内容を含むことは当然である。)をいうものと解すべきところ、この見地からみると、本願意匠並びに引用意匠の要旨は、前認定した構成によりその内容を特定するに十分というべきである(なお、両意匠の構成態様についての本件審決の認定は、上叙認定したところと若干異なるが、右の相違は、それぞれの意匠を全体的に観察した場合、後記説示に照らし、本件審決の結論に影響を及ぼすほどの相違と認めることはできない。)。原告の叙上主張は、両意匠の構成態様を、専ら平面的図形として製図的にとらえ、弧の大きさの程度や弧状部分と直線部分との割合の差異等意匠全体から観察すれば部分的な差異にすぎないと評価せざるを得ない具体的態様のわずかな差異を過大に評価し、その差異を強調するものであつて、意匠の見方及び意匠の対比の仕方としては極めて不適切なものといわざるを得ない。これを具体的にみるに、原告指摘の両意匠の構成態様に関する(1)及び(1)´の主張は、本願意匠については、本願意匠の上辺、左辺及び下辺の各角部の弧状部分が、意匠全体からみて大きく、決して小さいとはいえないにもかかわらず、これを細かに寸法をもつて現し、いかにもわずかに弧状であるかのように主張し、引用意匠については、引用意匠の上辺及び左辺中央部並びに右辺先端部が本願意匠と異なりわずかに弧状となつている点を強調し、引用意匠が横長直方体の形態を基調としていることを看過し、かつ、下辺に直線部分が存することを無視して、引用意匠は偏平な卵形を形成しているとの誤つた主張を含むものであり、また、同(2)及び(2)´の切欠部の形状についての主張は、本願意匠については、本願意匠の切欠部の右上部は開放状となつていて、ほぼU字状の弧状となつているのに、その点を無視してあえて小判形と称し、他方、引用意匠については、その上方が開口状となつていることや引用例の図版が後斜め上から見た図版であるため、切欠部の開口部の方向が、正面から見てやや右方向を向いていることが認められるだけであるにもかかわらず、あえて六〇度の角度で斜め右上方を向いて表れているとの適正を欠く主張を含むものであり、更に、同(3)及び(3)´の切断刃支持部の形態についての主張は、両意匠は、角の弧状及び切欠部の弧状の大きさの程度とそれに続く直線部分の有無という点で相違するだけであるにもかかわらず、引用意匠の切断刃支持部の形態を、本願意匠の切断刃支持部の形態とは全く異なるかたつむりの角状であるとするものであり、右指摘した点以外のその余の主張は、不適切であることは別にしても、いずれも、つきるところ、本件審決の認定と表現を多少異にし、あるいは、その構成を単に詳細に述べているにすぎないものであつて、採用するに由ない。そうすると、本願意匠及び引用意匠の要旨並びに構成についての本件審決の認定は相当であつて、右認定に誤りがあるとする原告の右主張は採用することができない。
そこで、以上に認定したところに基づき両意匠の構成を対比すると、両意匠は、本件審決認定のとおり、全体がやや偏平な横長直方体の右側約半分を右辺と下辺に余地を残して高さの約半分の長さの径のほぼU字状の弧状の切欠部を開口状に設け、左側半分の中央寄りに高さの約五分の一(本願意匠)ないし約四分の一(引用意匠)の径の巻芯部の円孔を穿ち、右辺の余地の先端を水平にして切断刃支持部とした基本的な構成態様において一致し(なお、両意匠の巻芯部の円孔の径の叙上の程度の相違は、視覚的には両意匠のこの点の一致性を妨げるものと認めることができない。)、本件審決認定のとおり、(1)偏平な横長直方体の左側半分の上辺及び左辺の中央部を、本願意匠が直線状としているのに対し、引用意匠は上辺及び左辺の両隅の各角の弧状がつながる態様で円弧状とした点、(2)切欠部の巻芯部寄りの上端部の態様について、本願意匠が、弧状に上辺角部に伸び三角形のひさし状に形成したものであるのに対し、引用意匠は、斜め直線状に延び上辺角部につながりほぼ直角状のひさし状をなしている点、(3)巻芯部の円孔の周囲の同心円状の模様について、本願意匠が横縞模様を現しているのに対し、引用意匠はほぼ輪状の模様を現している点、(4)切断刃支持部の先端部の右側面側の態様について、本願意匠が前後の側板を除いて、内側先端からゆるやかな弧状面を形成しているのに対し、引用意匠はその点について明らかでない点、(5)本願意匠が全体が不透明であるのに対し、引用意匠は全体が透明である点において相違するほか、(6)ほぼU字状の弧状の切欠部の開口部の方向が、本願意匠においては、引用意匠に比べてやや右方向を向いている点、(7)切断刃支持部の形態が、本願意匠においては、切欠部の弧状部及びそれに続く短い直線部と角の弧状部及びそれに続く直線部とが相まつてゆるやかなカーブのわずかに先細となつた角柱状のかぎ状となつているのに対し、引用意匠においては、切欠部の弧状と角の弧状とが相まつてゆるやかなカーブのわずかに先細となつた角柱状のかぎ状を形成しており、両者は、角の弧状及び切欠部の弧状の大きさの程度とそれに続く直線部分の有無という点で相違するものと認めることができる。
よつて、両意匠の類否について検討するに、両意匠を全体に観察した場合、本願意匠及び引用意匠において、構成を共通にする前認定の基本的構成態様は、共にかたつむりの形状を図案化した形状のものとして、後に説示するように他の構成部分を圧して看者に特異な印象、美感を起こさせるものとみるべきであるから、右の構成態様が看者の注意を最も引くものとして、両意匠において支配的要素をなすもの(要部)と認められる。原告は、接着テープホルダーにおいては、円筒状の巻芯部を持つ保持部と切断刃を設け、その間に切欠部を介在させ、その全体を偏平状とすることは、従来普通一般に行われていることであつて、この物品の機能上要求される形状であるから、こうした概念的な形状自体に両意匠の美的特徴が存するものではない旨主張するが、前認定説示の本願意匠及び引用意匠の基本的な構成態様が一般普通に用いられているありふれた形態あるいは接着テープホルダーとしての機能上当然に要求される形態であるものと認めることはできず、この認定を覆し、原告主張の事実を認めしめるに足りる証拠はなく、また、本願意匠及び引用意匠の右基本的構成態様が、テープホルダーとして要求される機能上の制約のもとに、任意に創作された形態であることを否定する証拠もないから、原告の右主張は、失当といわざるを得ない。更に、原告は、右の主張を前提としたうえで、原告主張の本願意匠及び引用意匠の構成を基礎に両意匠の美的特徴をなす構成並びに看者に圧倒的な美的印象を与える構成態様を抽出し、これと異なる本件審決の認定の誤りを主張するが、右主張は、前認定説示のとおり当裁判所の採用しない本願意匠及び引用意匠の構成についての原告の主張を前提として、独自の見解を主張するものであるから、採用するに由ない。また、原告は、本件審決は、本願意匠及び引用意匠の形態の要旨を極めて概念的、抽象的に把握している旨主張するが、意匠に係る形態のうち、基本的な要素となる部分を他の部分的な要素と切り離して抽出したものを基本的な構成態様と考える以上、それが概念的、抽象的であるのは当然であつて、そのこと自体は、何ら本件審決の認定を誤りとなし得ないものであるから、原告の右主張も採用することができない。
ところで、前認定のとおり、両意匠の間には(1)ないし(7)の差異が存し、これらの差異のいかんは両意匠の類否を左右することにもなるから、右の差異が両意匠の美感に及ぼす影響について、以下考察するに、前認定(1)の差異は、円弧状の丸みの程度の差異にとどまり、両意匠の支配的要素をなす基本的構成態様に包括され、右支配的要素をなす部分の印象を圧して、看者に格別の印象を与えるものとはいい難いから、両意匠の類否を左右するほどの構成上の差異と認めることができない。原告は、本願意匠は、横長直方体の本体の上辺、左辺、下辺の中央部分及び右辺の上部に直線部分が長く、明瞭に表れていて、中央部をわずかに直線状としているものではないから、上辺及び左辺の中央部のわずかな部分の態様の差異にとどまるとの本件審決の判断は根本的に誤りであり、しかも、両者の共通点として挙げている偏平な横長直方体状の形態は、本願意匠特有のものであり、引用意匠はこのように構成されておらず、更に、両者の共通点として指摘している左側半分の各隅の各角の形態も本願意匠特有のものであり、引用意匠には、隅とか角とかを認識させるような要素は何も存在しないのであつて、偏平な横長直方体状の左側半分の各隅の各角をかなり大きな弧状とした点の共通点は両者間には存在しないから、前記相違点が共通点で圧されることは、あり得ようがない旨主張するが、前認定説示のとおり、本願意匠も引用意匠も、基本的には偏平な横長直方体状の形態を有するもので、その角部(隅部)を大小の違いはあつても弧状に形成したものと認められ、したがつて、右弧状部の形態は、本願意匠に特有の形態であるとはいえず、また、両意匠全体の共通点に比べると、上辺及び左辺中央部が直線状であるか、わずかに円弧状であるかという差異も、部分的な態様の差異にとどまり、右の差異は、両意匠の前示支配的要素をなす部分が看者に与える美感に影響を及ぼし、両意匠の類否判断を異ならしめるほどのものと認めることができない。したがつて、原告の右主張は採用することができない。次に、前認定(2)の差異は、切欠部の巻芯部寄りの上端部の全体からみて、ごく小さな部位の態様の差異にすぎず、しかも、その態様の差異も巻芯部の上辺の隅と切欠部の上端とによつて形成されるひさし状部分という点では共通しており、両意匠を全体的に観察する場合、その類否判断に及ぼす影響は、微弱なものというべきである。原告は、切欠部の左側上端部を見ると、本願意匠では切欠部が小判形で、本体内に抱きかかえられるようにされていることからして、上辺が右下方に弧を描きつつ上方にひさし状に大きく突出し、その先もとがつているものであるから、あたかも鳥のくちばしのように見えるけれども、引用意匠では、右方に大きく張り出しもせず上に覆いかぶさつてもいないので、そもそもひさし状とはいえないし、先がとがつてもおらず、曲がつてもいないから鳥のくちばしのように見えることなどなく、しかも、この切欠部の形態にも両者間に大きな美感の相違が見られ、こうした両者の切欠部の形態の相違は、上記角形と丸形という基本的な美的処理方法と相まつて、両意匠の美的印象を更に一層異なつたものとしており、本願意匠におけるこの切欠部の左側上端部の形態は、本願意匠の美的特徴を構成するための不可欠の部分となつている旨主張する。しかしながら、原告の右主張は、前認定説示のとおり、本願意匠及び引用意匠の切欠部の構成についての誤つた理解を前提とする主張であるばかりか、仮に、原告主張のとおり、本願意匠の切欠部の巻芯部寄りの上端部の態様が鳥のくちばし状のものであるとしても、右部分の態様の差異は、本願意匠及び引用意匠の前示の支配的要素をなす部分の印象を圧して、看者の注意を引くほどのものではなく、極めて部分的な差異にとどまることに変わりはなく、切欠部の形態の差異と併せてみても、全体としての意匠の類否を左右するほどのものではないから、いずれにしても原告の右主張は、採用の限りではない。更に、前認定(3)の差異も、意匠の全体からみれば、巻芯部の円孔の周囲のごく小さい部分の態様の差異であつて、しかも、右横縞模様をもつて格別の特徴をもつた模様とはいえず、一方、両意匠は、いずれも同心円状の模様を有するという点で共通しており、横縞模様の有無が両意匠の類否判断に及ぼす影響は、両意匠の類否判断を左右するものということはできず、したがつて、原告の右主張も採用することができない。また、更に、前認定(4)の差異は、切断刃支持部の先端部というごく小さな部位の態様の差異であつて、右側面の態様については、引用意匠は明らかでないが、この点は、類否判断の要素としては、ごく微弱なものであり、切断刃支持部が切欠部の弧状と角の弧状とが相まつて、ゆるやかなカーブのわずかに先細となつた角柱状のかぎ状を形成している点の共通点がこれを圧しており、意匠全体の類否判断に及ぼす影響は極めて微弱というべきである。原告は、本体右側に位置する切断刃支持部は、本願意匠においては、右下隅の弧から上方に真直に延びる右辺と切欠部の右辺下方の弧とそれに続く直線とによつて、本体右下方から屈曲しながら上方を向き、更にそこからまつすぐに立ち上がる角柱状に見られ、これが本体の角形に、同じ角形として更にアクセントを与えているのに対し、引用意匠のものは、下辺の右側より大きな弧を描いて斜め右上方に延びる右辺とU字状切欠部の右辺によつて、斜め右上方に向かつて弧を描きながら次第に先細となつているもので、これが本体の卵形に同じタイプのアクセントを与えて、全体としてかたつむり状の感覚を生じさせるものであるから、両者は、その美感を大きく異にするものであり、両意匠は、単に切断刃支持部の先端部の右側面部の態様が異なつているというだけのものではなく、本件審決が両意匠において共通であるとする切断刃支持部の形状そのものが大きく相違している旨主張するが、前認定説示のとおり、本願意匠と引用意匠とは、切断刃支持部の基本的構成態様を同じくするものであり、原告主張に係る右態様の差異は、弧状部の曲率の程度の違いと、弧状部に続く短い(右辺)、あるいはごく短い(U字状切欠部の右辺)直線部分の有無の違いだけであつて、意匠の全体からみれば極めて部分的な態様の差異であつて格別美感に差異をもたらすほどのものではなく、したがつて、右の差異は両意匠の類否の判断に影響を与えるものとは認められないから、原告の右主張も採用することができない。そして、前認定(5)の差異も、この種物品において全体を透明にするか否かは、適宜普通に行われていることであり、格別の差異を生ぜしめるものとはいい難いから、この点は両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではなく、また、前認定の(6)及び(7)の差異も、意匠全体からみれば、意匠の類否を左右するような差異とは到底認めることができない(なお、本件審決は、右(6)及び(7)の点を両意匠の差異点として掲記せず、その点について判断を加えていないが、これが本件審決の結論に何らの影響を与えるものでないことは明らかである。)。これを要するに、以上の(1)ないし(7)の差異は、両意匠に全体的を対比観察した場合、いずれも部分的な相違であつて、前示の両意匠全体の印象に大きな影響を与えて、両者を非類似のものとするほどの相違とみることはできない。そうすると、本願意匠と引用意匠とはその要部を同じくするもので、両意匠間に部分的には差異があるけれども、その差異は全体として観察すれば、いまだ非類似の意匠とするに足りないものであり、そして、両者の意匠に係る物品は同一のものであるから、両意匠は類似の意匠というべきである。
(結語)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する。
〔編註その一〕 本件における当事者の主張は、左のとおりである。
第一 当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和六一年六月一二日、同庁昭和五六年審判第一五一一号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。
第二 請求の原因
原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。
一 特許庁における手続の経緯
訴外山口隆治は、昭和五三年八月三日、意匠に係る物品を「接着テープホルダー」とする別紙図面(一)の意匠(以下「本願意匠」という。)について意匠登録出願(昭和五三年意匠登録願第三二五九四号)をし、原告は、昭和五五年一月二六日右山口隆治から本願意匠の意匠登録を受ける権利を譲り受け、同月三〇日その旨の届出を了したが、同年九月二五日拒絶査定を受けたので、昭和五六年一月一九日これを不服として審判の請求(昭和五六年審判第一五一一号事件)をしたが、昭和六一年六月一二日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は、同年六月二八日原告に送達された。
二 本件審決理由の要点
本願意匠は、意匠に係る物品を「接着テープホルダー」とし、その内容は、別紙図面(一)のとおりであつて、その形態の要旨は、全体がやや偏平な横長直方体の右側約半分を右辺と下辺に余地を残して高さの約半分の長さの径のほぼU字状の弧状の切欠部を開口状に設け、左側半分の中央寄りに高さの約五分の一の径の巻芯部の円孔を穿ち、右辺の余地の先端を水平にして切断刃支持部とした基本的な構成態様のものであり、その具体的な構成態様は、上辺と下辺の両隅の各角をかなり大きな弧状にし、上辺と左辺の中央部をそれぞれわずかに直線状とし、切欠部は、全体がほぼU字状で、巻芯部寄りの上端が弧状に上辺角部に伸び三角形のひさし状を形成しており、切断刃支持部が切欠部の弧状と角の弧状とが相まつてゆるやかなカーブのわずかに先細となつた角柱状のかぎ状を形成しており、そして、その先端部において前後の側板を除いて右側面側を内側先端からゆるやかな弧状面に形成して、その上面の横位置に切断刃を設け、また、巻芯部の円孔の周囲に同心円状に横縞模様を現したものである。これに対して、本願意匠と類似するとして、原審において拒絶の理由に引用した意匠は、本願意匠の意匠登録出願前に日本国内において頒布された刊行物である外国カタログ「SEARS」一九六八年秋冬号(以下「本件図書」という。)の第八六六頁に記載されたNo.27の図版により現された意匠(特許庁意匠課公知資料番号第四八二九〇四一号。以下「引用意匠」という。)であつて、その図版の記載により、意匠に係る物品が「接着テープホルダー」と認められ、その内容は、別紙図面(二)のとおりである。そして、その形態の要旨は、全体がやや偏平な横長直方体の右側約半分を右辺と下辺に余地を残して高さの約半分の長さの径のほぼU字状の弧状の切欠部を開口状に設け、左側半分の中央寄りに高さの約五分の一の径の巻芯部の円孔を穿ち、右辺の先端を水平にして切断刃支持部とした基本的な構成態様のものであり、その具体的な構成態様は、上辺と下辺の両隅の各角をかなり大きな弧状にし、上辺の両隅の各角及び左辺の上下角隅の各角の弧が、各つながる態様で上辺の中央部及び左辺の中央部を各円弧状とし、切欠部は、全体がほぼU字状であり、巻芯部寄りの上端が斜め直線状に伸び、上辺角部につながりほぼ直角状のひさし状を形成しており、切断刃支持部が切欠部の弧状と角の弧状とが相まつてゆるやかなカーブのわずかに先細となつた角柱状のかぎ状を形成しており、その先端部の右側面の態様については明らかではなく、その上面の横位置に切断刃を設け、また、巻芯部の円孔の周囲に同心円状のほぼ輪状の模様を現しており、材質を透明なものとしたものである。
そこで、両意匠を比較検討するに、両者は、(1)偏平な横長直方体の左側半分の上辺及び左辺の中央部を、本願意匠がわずかに直線状としているのに対し、引用意匠は上辺及び左辺の両隅の各角の弧状がつながる態様で円弧状としている点、(2)切欠部の巻芯部寄りの上端部の態様について、本願意匠が弧状に上辺角部に伸び三角形のひさし状を形成しているのに対し、引用意匠は斜め直線状に延び上辺角部につながりほぼ直角状のひさし状をなしている点、(3)巻芯部の円孔の周囲の同心円状の模様について、本願意匠が横縞模様を現しているのに対し、引用意匠はほぼ輪状の模様を現している点の差異があるほか、(4)切断刃支持部の先端部の右側面側の態様について、本願意匠が前後の側板を除いて、内側先端からゆるやかな弧状面を形成しているのに対し、引用意匠はその点について明らかでない点、(5)本願意匠が全体が不透明であるのに対し、引用意匠は全体が透明である点について主として差異が認められる。しかしながら、(1)の点は、上辺及び左辺中央部のわずかな部分の態様の差異にとどまり、全体のやや偏平な横長直方体状の左側半分の各隅の各角をかなり大きな弧状とした点の共通点がこれを圧しており、両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものにすぎず、(2)の点は、切欠部の巻芯部寄りの上端部の全体からみて、ごく小さな部位の態様の差異にすぎず、巻芯部の上辺の隅と切欠部の上端とによつて形成されるひさし状部分という点では共通しており、両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものにとどまり、(3)の点は、巻芯部の円孔の周囲の全体からみて、ごく小さな部分の態様の差異にすぎず、共に同心円状の模様である点の共通点がこれを圧しており、両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものにとどまり、(4)の点は、切断刃支持部の先端部というごく小さな部位の態様であつて、右側面の態様については、引用意匠は明らかでないが、この点は類否判断の要素としては、ごく微弱なものであり、切断刃支持部が切欠部の弧状と角の弧状とが相まつて、ゆるやかなカーブのわずかに先細となつた角柱状のかぎ状を形成している点の共通点がこれを圧しており、意匠全体の類否判断に及ぼす影響は極めて微弱なものであり、(5)の点は、この種物品において、全体を透明とするか不透明とするかは、共にごく普通に行われるものであり、両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものにとどまつており、そうして、これらの差異点が相まつた効果を考慮しても、両意匠の類否判断を左右するまでには至つていない。そうすると、両意匠は、その全体の基本的な構成態様及び各部の具体的な構成態様のほとんどが共通し、これらの共通点は、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものと認めざるを得ない。してみれば、両意匠の差異点が、類否判断を左右するまでには至つていないのに対し、共通点は、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものである以上、両意匠は、類似するものといわざるを得ない。
したがつて、本願意匠は、意匠法第三条第一項第三号に規定する意匠に該当するから、意匠登録を受けることができない。
三 本件審決を取り消すべき事由
本願意匠と引用意匠とが意匠に係る物品を共通にすることは認めるが、本件審決は、本願意匠及び引用意匠の構成並びに要旨の認定を誤つた結果、両意匠の差異の認定判断を誤り、ひいて、本願意匠は引用意匠に類似するとの誤つた結論を導いたものであつて、違法として取り消されるべきである。すなわち、
1 本願意匠及び引用意匠の構成並びに要旨認定の誤り
本願意匠の構成は、(1)本体は、縦対横対厚さを約三対四・三対一とするやや偏平で右上方を切り除き各角部を弧状とした隅丸横長直方体であり、その前面及び背面の外周陵縁部をわずかに弧状に面取りし、この本体上辺の中央部の直線部分の長さは、平面から見たとき横方向に占める長さが両角部の弧状部分が横方向に占める長さの約二倍であり、左辺の中央部の直線部分の長さは、左側面から見たとき高さ方向に占める長さが両角部(上端部及び下端部)の弧状部分が高さ方向に占める長さの約二倍であり、下辺の中央部の直線部分の長さは、底面から見たとき横方向に占める長さが両角部の弧状部分が横方向に占める長さの約三・七倍であり、右辺の上部の直線部分の長さは、右側面から見たとき高さ方向に占める長さが下角部(下端部)の弧状部分が高さ方向に占める長さの約一・四倍となつている、(2)切欠部が、上記本体の右側やや上方に、本体高さの約五分の三の高さで縦対横を五対四とし、その右肩約四分の一を切り除いた小判形を形成し、これが縦方向を向いて表れており、この切欠部の左側上端部は、本体上辺の右下方に曲がる弧とつながつて先端がとがり、切欠部の上に覆いかぶさるように右方へ突出している、(3)切欠部の右側には、切断刃支持部が、本体右下の弧から上方へ垂直に伸びる右辺と上記切欠部の右下方の弧に続き上方へ垂直に伸びる直線とによつて、本体の右下方から弧を描きつつ上方へ屈曲してまつすぐに立ち上がる角柱状をなして存在し、該角柱の先端部は、前後の側板間が右下方に傾斜し、そこに切断刃が斜め上方に突出しており、この上端部左側より切欠部の下辺中央部まで内壁面が表れ、その先は左側上端部まで壁のない開放状態となつている、(4)本体の左側には、本体高さの約五分の一の巻芯部の円孔が表れ、その円孔の外側に本体高さの約半分の外径で同心円状に細い横縞模様が見られる、というものであるのに対し、引用意匠の構成は、(1)´本体は、縦対横対厚さを大略四対五対一程度の偏平な平行板状の上辺から左辺を経て下辺に至る部分が連続して弧状に表れ、短い直線状の下辺を挟み、更に切断刃に至る右辺が斜め右上方に弧を描いている卵形、すなわち、正面から見て左側が大きな弧で、右側が小さな弧となつている卵の前部と後部を縦にまつすぐに切り落したような偏平な卵形を形成しており、この本体の中で直線として表れている下辺中央部の直線部分の長さは、底面から見たとき横方向に占める長さが両角部の弧状部分が横方向に占める長さとほぼ同じ(一倍)となつている、(2)´切欠部が、上記本体の右側上方に、本体高さの約半分の径の大きなU字形に形成し、これが本体下辺に対して約六〇度の角度で斜め右上方を向いて表れており、この切欠部の左側上端部は、本体上辺の弧と直角状をなし、わずかに右方に傾斜している、(3)´切欠部の右側には、切断刃支持部が、本体下辺の右側から斜め右上方に向かつてずつと続けて弧を描いている右辺とU字状切欠部の右辺とによつて、斜め右上方の先端にいくに従つて次第に先細となるかたつむりのつの状に見られ、その先端部に切断刃が斜め上方に突出しており、この先端部から切欠部の右辺下方に内壁面があり、その先は切欠部下端を通り左側上端部まで壁のない開放状態となつている、(4)´本体の左側には、本体高さの約四分の一の巻芯部の円孔が表れ、その円孔の外側に同心円リング状の模様が見られ、全体が透明になつているというものである。ところで、本願意匠及び引用意匠の意匠に係る物品である接着テープホルダーにおいては、巻回された接着テープを保持する円筒状の巻芯部を持つ保持部と、接着テープをカツトするための切断刃を設け、その間に接着テープを引き出すための切欠部を介在させ、その全体を偏平状に形成することは、従来普通一般に行われていることであつて、接着テープホルダーという物品の機能上要求されている形状であるから、こうした概念的な形状自体に両意匠の美的特徴が存するものではない。これを別紙図面(三)を参照して説明すると、本願意匠は、下辺1(符号はすべて別紙図面(三)に表示したところによる。)と上辺2がそれぞれ水平で平行であり、左辺3と右辺4が上記下辺1及び上辺2に垂直で互いに平行であり、かつ、前面と背面も互いに平行となつているやや偏平な横長直方体状をし、直線部分が上辺の中央部、下辺の中央部、左辺の中央部、右辺の上部にそれぞれ長く、かつ、明瞭に表れていて、角部(隅部)を弧状にした本体を有し、その右方に小判形の切欠部を、その中心線5を上記本体の下辺1及び上辺2に垂直で、左辺3及び右辺4に平行な方向に向かわせて縦長に表し、その右肩約四分の一を切り除いて、開口を狭くし、本体内に抱き込むようにしている構成をその意匠の本質的な美的特徴(要旨)とするものである。他方、引用意匠は、上辺2´(符号はすべて別紙図面(三)に表示したところによる。)から左辺3´を経て下辺1´に至るまで連続する弧状となり、これにやや短く水平な下辺1´が続き、更に、そこから右辺4´を経て上辺2´に至るように弧状を描いており、かつ、前面と背面が平行となつていて、正面から見て左側が大きな弧で、右側が小さな弧となつている偏平な卵形の本体を有し、その右上方にU字形の切欠部を、その中心線5´を本体下辺1´に対して約六〇度の角度に斜め右上方に向け、その入口が外方に向かつて大きくすんなりと口を開いているようになつている構成をその意匠の本質的な美的特徴(要旨)とするものである。
しかるに、本件審決は、本願意匠及び引用意匠の形態の要旨を、いずれも、全体がやや偏平な横長直方体の右側約半分を右辺と下辺に余地を残して高さの約半分の長さの径のほぼU字状の弧状の切欠部を開口状に設け、左側半分の中央寄りに高さの約五分の一の径の巻芯部の円孔を穿ち、右辺の余地の先端を水平にして切断刃支持部とした基本的な構成態様のものであると極めて概念的、抽象的に把握している。更に、本件審決は、本願意匠におけるこの基本的な構成態様とするものを、(1)「上辺と下辺の両隅の各角をかなり大きな弧状にし、上辺と左辺の中央部をそれぞれわずかに直線状とし」、(2)「切欠部は、全体がほぼU字状で、巻芯部寄りの上端が弧状に上辺角部に伸び三角形のひさし状を形成しており」と具体的な構成態様に分説、認定しているが、(1)の点は、本願意匠にあつては、既に述べたとおり、本体上辺の中央部の直線部分の長さは、平面から見たとき横方向に占める長さが両角部の弧状部分が横方向に占める長さの約二倍であり、左辺の中央部の直線部分の長さは、左側面から見たとき高さ方向に占める長さが両角部(上端部及び下端部)の弧状部分が高さ方向に占める長さの約二倍であり、下辺の中央部の直線部分の長さは、底面から見たとき横方向に占める長さが両角部の弧状部分が横方向に占める長さの約三・七倍であり、右辺の上部の直線部分の長さは、右側面から見たとき高さ方向に占める長さが下角部(下端部)の弧状部分が高さ方向に占める長さの約一・四倍となつており、こうした直線部分の総和は、弧状部分の総和の約一・五倍の長さとなつているものであつて、上辺、左辺、下辺の中央部分及び右辺の上部に直線部分が、長く、かつ、明瞭に表れているから、本件審決の前記認定のとおりにはなつていないので、かかる認定は誤りであり、また、(2)の点も、既に述べたとおり、本願意匠の切欠部は、上記横長直方体状の本体の右側やや上方に、本体高さの約五分の三の高さで縦対横を約五対四とし、その右肩約四分の一を切り除いた小判形を形成し、これが縦方向を向いて表れており、この切欠部の左側上端部は、本体上辺の右下方に曲がる弧とつながつて先端がとがり、切欠部の上に覆いかぶさるように右方へ突出しているのであつて、全体がほぼU字状ではなく小判形であり、かつ、縦方向を向いていることが看過されている。切欠部の左側上端部はひさし状を形成しており、その形は鳥のくちばし状である。また、本件審決は、引用意匠の基本的な構成態様とするものを、(1)「上辺と下辺の両隅の各角をかなり大きな弧状にし、上辺の両隅の各角及び左辺の上下各隅の各角の弧が、各つながる態様で上辺の中央部及び左辺の中央部を各円弧状とし」、(2)「切欠部は、全体がほぼU字状であり、巻芯部寄りの上端が斜め直線状に伸び、上辺角部につながりほぼ直角状のひさし状を形成しており」、(3)「切断刃支持部が切欠部の弧状と角の弧状とが相まつてゆるやかなカーブのわずかに先細となつた角柱状のかぎ状を形成しており」と具体的な構成態様に分説、認定しているが、(1)の点については、引用意匠は、既に述べたとおり、本体は縦対横対厚さを大略四対五対一程度の偏平な平行板状の上辺から左辺を経て下辺に至る部分が連続して弧状に表れ、短い直線状の下辺を挟み、更に切断刃に至る右辺が斜め右上方に弧を描いている卵形を形成しているところ、この卵形とは、正面から見て左側が大きな弧で、右側が小さな弧となつている卵の前部と後部を縦にまつすぐに切り落したような偏平な卵形であつて、わずかに下辺中央部を除いて直線部分がなく、弧が組み合わさつているうえに、更にその弧が一見して卵形を直感させる構成であり、(2)の点は、切欠部はU字形ではあるけれども、これが本体下辺に対して約六〇度の角度で斜め右上方を向いて表れているものであることが看過されており、しかも、この切欠部の左側上端部(巻芯部寄りの上端)は、本体上辺の弧と直角状をなし、わずかに右方へ傾斜しているだけのものであるから、こうしたものはひさし状とはいえず、更に、(3)の点は、引用意匠においては、既に述べたように、切欠部の右側には、切断刃支持部が、本体下辺の右側から斜め右上方に向かつてずつと続けて弧を描いている右辺とU字状切欠部の右辺とによつて、斜め右上方の先端にいくに従つて次第に先細となるかたつむりのつの状に見られるのであつて、右認定は、いずれも誤りである。
2 本願意匠と引用意匠との差異の認定及び対比判断の誤り
本件審決は、両意匠の基本的な構成態様に差異はないとしているが、右認定は誤りである。すなわち、本願意匠は、既に述べたように、水平かつ平行な上辺と下辺、これに垂直かつ平行な左辺と右辺、平行な前面と背面、上辺、左辺、下辺の中央部分及び右辺の上部に表れた長くて明瞭な直線部分からなり、かつ、この直線部分の総和は、弧状部分の総和の約一・五倍となつている横長直方体状の本体に、縦長で中心線が上記上辺及び下辺に垂直で、左辺及び右辺には平行となつている小判形の切欠部を内に抱きかかえるようにしたという、角形を基調とする本体とこれに垂直な縦長小判形切欠部とによる構成態様が、特に看者に対して圧倒的な美的印象を与えるものであるのに対し、引用意匠では、上辺から左辺を通つて下辺に至る弧と、更に、下辺から右辺を通つて上辺に至る弧からなる偏平な卵形の本体に、大きな弧を持つU字形の切欠部を斜め右上方に向けて大きく口が開くように配置したという、卵形を基調とする本体と斜め右上方に開くU字状切欠部とによる構成態様が看者に対して美的印象を与えるものである。ところで、元来、意匠法における意匠とは、物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいうのであるが、この意匠における形状についてみると、これは基本的にいくつかの類型に分けることができるが、その中で角(四角)と丸とは、これを見た場合に、誰もが相互に全く別異の感じを受けるところから、それぞれ完全に独立した独自の形であるとして、別類型に属するものであつて、これは意匠上永遠に貫かれる本質であるところ、本願意匠は、角形であり、引用意匠は卵形、丸形であるから、両者は形状としての類型を全く異にし、看者に対して本願意匠が肩の張つた、男性的で、がつしりとして、やや硬い感じがするのに対して、引用意匠は、肩のなだらかな、女性的で、柔らかな感じを与えるものであるから、両者の美感の有り様はまずその本質において明らかに相違するものである。そのうえ、上記本体に対する切欠部は、本願意匠においては、前記のとおり、<1>小判形になつていて、<2>しかも、その中心線は、本体の左辺と右辺に平行、上辺と下辺に垂直であり、<3>その左側上端部6は、本体上辺2の右下方に延びる弧とによつて右側に大きく突出して上から覆いかぶさるようになり、<4>これによつて切欠部は本体の中に抱きかかえられるようになつていて、<5>更に、この切欠部は、入口が狭く、奥に向かつて拡がるような懐の深い感じを与えるものであるのに対し、引用意匠においては、前記のとおり、<1>´U字形の切欠部になつていて、<2>´しかもその中心線は、本体下辺に対して約六〇度となつた斜め右上方を向いており、<3>´その切欠部の左辺6´は、本体上辺2´と直角状をなしてやや右方に傾斜しているが、上から覆いかぶさつている形態ではもちろんなく、<4>´この切欠部が外方を向いており、<5>´その開口部が外方に向かつて大きくすんなり開いているところから開放的な感じを与えるものであつて、両者間には大きな美感の相違が見られる。そして、こうした両者の相違は、角形と丸形という基本的な美的処理方法と相まつて、両意匠の美的印象を更に一層異なつたものとしているのである。更に、本件審決は、両者の具体的構成態様の差異として、(1)ないし(5)の点を認定し、(1)の差異(偏平な横長直方体の左側半分の上辺及び左辺の中央部の差異)について、この点は、上辺及び左辺各中央部のわずかな部分の態様の差異にとどまり、全体のやや偏平な横長直方体状の左側半分の各隅の各角をかなり大きな弧状とした点の共通点がこれを圧しており、両意匠の類否判断に及ぼす影響は、微弱なものにすぎない旨判断しているが、本願意匠は、前記のとおり、横長直方体の本体の上辺、左辺、下辺の中央部分及び右辺の上部に直線部分が長く、明瞭に表れているのであつて、中央部をわずかに直線状としているものではないのであるから、右(1)の差異が上辺及び左辺の中央部のわずかな部分の態様の差異にとどまるとの判断は根本的に誤りである。しかも、両者の共通点として挙げている「偏平な横長直方体状」の形態は、本願意匠特有の形態であり、引用意匠はこのように構成されておらず、更に、本件審決が両者の共通点として指摘している「左側半分の各隅の各角」の形態も本願意匠特有の形態であり、引用意匠には、隅とか角とかを認識させるような要素は何も存在しない。したがつて、「偏平な横長直方体状の左側半分の各隅の各角をかなり大きな弧状とした点の共通点」は両者間には存在しない。よつて、右(1)の差異が共通点で圧されることは、あり得ようがない。また、本件審決は、(2)の差異(切欠部の巻芯部寄りの上端部の態様の差異)について、この点の差異は、切欠部の巻芯部寄りの上端部の全体から見て、ごく小さな部位の態様の差異にすぎず、巻芯部の上辺の隅と切欠部の上端とによつて形成されるひさし状部分という点では共通しており、両意匠の類否判断に及ぼす影響は、微弱なものにとどまる旨判断しているが、切欠部の左側上端部を見ると、本願意匠では切欠部が小判形で、本体内に抱きかかえられるようにされていることからして、上辺が右下方に弧を描きつつ上方にひさし状に大きく突出し、その先もとがつているものであるから、あたかも鳥のくちばしのように見えるけれども、引用意匠の切欠部の左側上端部は、右方に大きく張り出しもせず切欠部の上に覆いかぶさつてもいないので、ひさし状とはいえないし、先がとがつてもおらず、曲がつてもいないから鳥のくちばしのように見えることなどない。このように、本願意匠の切欠部の左側上端部は、あたかも鳥のくちばしのように見えるのであつて、しかも、このように部分的にとらえることももちろん必要ではあるけれども、それ以上に、この切欠部の左側上端部が、本願意匠の美的特徴である横長直方体の本体とその右方に位置する切欠部(小判形)の形成に当たつてどのような要素として作用しているかということもまた同時に注目されなければならないところ、本願意匠における切欠部の構成は、前記<1>ないし<5>のとおりであるのに対し、引用意匠における切欠部の構成は、前記<1>´ないし<5>´のとおりであつて、両者間に大きな美感の相違がみられる。そして、こうした両者の相違は、上記角形と丸形という基本的な美的処理方法と相まつて、両意匠の美的印象を更に一層異なつたものとしているのである。このように、本願意匠におけるこの切欠部の左側上端部は、横長直方体の本体に小判形の切欠部を抱き込むように形成することに直接あずかつており、この部分があるからこそ、小判形にも、抱きかかえるようにもみえるのであつて、前記のとおり、本願意匠の美的特徴を構成するための不可欠の部分となつているから、本件審決の説示するように本願意匠と引用意匠の類否判断に及ぼす影響は何ら微弱なものにとどまるものではない。更に、本件審決は、(3)の差異(巻芯部の円孔の周囲の模様の差異)についても、巻芯部の円孔の周囲の全体からみて、ごく小さな部分の態様の差異にすぎず、共に同心円状の模様である点の共通点がこれを圧しており、両意匠の類否判断に及ぼす影響は、微弱なものにとどまる旨判断しているが、本願意匠と引用意匠のものでは看者に与える印象が異なる。また、更に、本件審決は、(4)の差異(切断刃支持部の先端部の右側面側の態様の差異)について、この点は、切断刃支持部の先端部というごく小さな部位の態様であつて、引用意匠の右側面の態様は明らかでないが、この点は、類否判断の要素としてはごく微弱なものであり、切断刃支持部が切欠部の弧状と角の弧状とが相まつてゆるやかなカーブのわずかに先細となつた角柱状のかぎ状を形成している点の共通点がこれを圧しており、意匠全体の類否判断に及ぼす影響は、極めて微弱なものである旨判断しているが、両意匠は、単に切断刃支持部の先端部の右側面部の態様が異なつているというだけのものではなく、本件審決が両意匠において共通であるとする切断刃支持部の形状そのものが大きく相違しているのである。すなわち、本願意匠の切断刃支持部は、右下隅の弧から上方にまつすぐに延びる右辺4と切欠部の右辺7下方の弧とそれに続く直線とによつて、本体右下方から屈曲しながら上方を向き、更にそこからまつすぐに立ち上がる角柱状に見られ、これが本体の角形に、同じ角形として更にアクセントを与えているのに対し、引用意匠の切断刃支持部は、下辺の右側より大きな弧を描いて斜め右上方に延びる右辺4´とU字状切欠部の右辺7´によつて、斜め右上方に向かつて弧を描きながら次第に先細となつているもので、これが本体の卵形に同じタイプのアクセントを与えて、全体としてかたつむり状の感覚を生じさせるものであるから、両者は、その美感を大きく異にするものである。
第三 被告の主張
被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。
一 請求の原因一及び二の事実は、認める。
二 同三の主張は、争う。本件審決の認定判断は、正当であつて、原告主張のような違法の点はない。
1 請求の原因三1の主張について
一般的に意匠の認定においては、意匠の類否に最も大きな影響を及ぼす全体の基本的な構成態様とこれに比べて及ぼす影響の小さい各部の具体的な構成態様とに区別し、それぞれの構成態様が意匠全体のうちどの程度の重要性を有するものであるかを衡量し、その重要度に応じた認定をすべきものであるところ、原告は、意匠に係る形態を単純に幾つかの部分に分けて、それぞれの態様を前記重要性の度合を考慮することなく、しかも、部分的な構成態様を過剰に製図的な細かい観察をして認定しているものであつて、この種の意匠の認定の方法として妥当なものとはいえない。すなわち、一般的に、立体物に係る意匠については、通常の使用時において、その使用者が最も多くそれを見る角度から、立体物の固まり全体を三次元的に観察して認定することが必要とされるものであるところ、原告は、両意匠の差異を強調する余りか、両意匠の正面の態様を、専ら平面的図形として、その図形をごく間近に置いて対比し、図学的な細かさで観察し、明瞭でないか、あるいは部分的な差異を過大にとらえて挙示しているものであつて、意匠の認定の方法としては極めて不適切な認定の仕方によつているといわざるを得ない。その結果、原告は、本願意匠について、上辺及び左辺中央部の直線部とこれにつながる角部の曲線との境界が必ずしも明確でないところをあえて区別して、その寸法の差異を云々し、また、切欠部について、右上部が開放状となつている点を無視し、これをあえて小判型と称し、しかも、さほど明瞭でないにもかかわらず、縦方向であると断定するという誤りを犯しているものである。他方、引用意匠については、上辺中央部と左辺中央部が本願意匠と異なりわずかに弧状となつている点及び下辺の直線部が本願意匠と異なりわずかに短いといういずれも部分的な差異を根拠として、「本体は、……偏平な平行板状……」といい、全体を「偏平な卵形」という本願意匠と根本的に異なる形態であると断じ、また、切欠部について、その上方が開放状となつているため、及び引用例の写真が後斜め上からの撮影であるため不明確であるにもかかわらず、引用意匠の切欠部について、「六〇度の角度で斜め右上方を向いて表れている」と断じている誤りがあり、更に、切断刃支持部の態様について、切欠部の弧状と角の弧状が相まつてゆるやかなカーブのわずかに先細となつた角柱状のかぎ状となつている点について、そのカーブの曲率のわずかの差異をとらえて、「かたつむりの角状」という本願意匠と全く異なる表現を用いる誤りを犯している。以上のとおり、原告の両意匠の構成についての主張は、当を得ないものであつて、到底認めることができない。原告は、更に、本願意匠及び引用意匠の美的特徴(要旨)について主張しているが、ここでいう美的特徴(要旨)とは、原告の主張の全体から判断すると、「構成」の記載の要約あるいは要点の意と思われるところ、原告は、接着テープホルダーにおいては、円筒状の巻芯部を持つ保持部と切断刃を設け、その間に切欠部を介在させ、その全体を偏平状とすることは、従来普通一般に行われていることであつて、この物品の機能上要求されている形状であるから、こうした概念的な形状自体に両意匠の美的特徴が存するものではない旨主張するが、この主張のような機能上の条件を充たした形状が一つの形状にとどまるものということはなく、むしろ無限に近く多種の形状が創作できるところであつて、しかも、その形状とは、部分的な形状のみでなく意匠に係る形態全体の基本的な構成態様及びその具体的な構成態様についても多種の創作をすることが可能であつて、このことは、従来同様の機能を有する接着テープホルダーにおいて全体の基本的な構成態様を異にする多数の公知意匠が存在することからも明らかである。したがつて、本願意匠及び引用意匠に係る形態の全体の基本的な構成態様及び具体的な構成態様は、機能上必然的にそのような形態となるというものではなく、機能上の制約を越えて自由に、かつ、任意に創作した形態であるからこそ、両意匠に係る形態の最大かつ基本的な特徴となるものであり、両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものというほかはない。ましてや、接着テープホルダーの概念的な形状であるとは、到底いえないものであつて、原告の主張は当たらない。そして、本願意匠は、本願意匠の意匠登録出願前に既に公知となつていた引用意匠とその部分的な形態が多少異なるものであるが、その形態全体の基調を同じくするものであつて、同一の意匠とはいえないまでも格別の新規性・創作性がみられず、類似の範囲を出るものではない。また、原告は、右主張を前提として、本件審決の両意匠に係る形態の全体の基本的な構成態様の認定について、「極めて概念的、抽象的に把握している。」旨主張するが、これは、本件審決における両意匠に係る形態の要旨認定の記載の一部を全部と取り違えて論じているものであつて、明らかに誤りである。仮に、そうではなく、原告が、全体の基本的な構成態様の記載のみについて、概念的、抽象的であるというのであるならば、それは、意匠に係る形態のうち、基本的な要素となるもの、すなわち、両意匠の基調ないし骨子に相当する部分を他の部分的な要素と切り離して抽出したものが「全体の基本的な構成態様」と考えられるところである以上、概念的、抽象的であることは当然であつて、そのこと自身が本件審決の要旨認定に誤りがあるということにはならず、原告の主張は、全く当を得ないものである。原告は、続いて、本件審決の本願意匠の各部の具体的な構成態様の記載のうちの、上辺及び左辺の中央部の直線部分の記載に関し、「直線部分の総和は、弧状部分の総和の一・五倍の長さ……」と主張しているが、これは、立体物の正面の態様を製図的な見方で図面上の寸法で論じているものであつて、立体物の形態の要旨の誤つた認定の仕方であつて認めることができない。なお、原告指摘の点は、この種物品を見る場合の通常の視点から立体物としてみた場合、ごく部分的な構成態様の差異にすぎず、本件審決の認定に誤りはない。その他、原告は、本件審決の本願意匠の各部の具体的な構成態様の認定に関し、誤つている旨主張するが、原告の主張するところは、せんじ詰めれば本件審決の認定と表現を多少異にしているものの実質的には大差のないところであつて、いずれも両意匠の類否判断に微弱な影響しか及ぼさない部分的な態様についての主張にとどまつており、これを認めることはできない。原告は、更に、本件審決における引用意匠の認定に関しても誤つている旨主張するが、やはり、いずれも本件審決の記載と表現を多少異にしているにすぎない程度のものであつて、実質的に大差のないものあるいは全体からみれば両意匠の類否判断に微弱な影響しか及ぼすことのない部分的な態様の差異を過大にとらえて全体の態様が本件審決の認定と異なるとするものであつて、本件審決の認定を誤りとすることのできるものではない。
2 請求の原因三2の主張について
原告は、本願意匠は角形であり、引用意匠は卵形、丸形であるから、両者は形状としての類型を全く異にし、看者に対して本願意匠が肩の張つた、男性的で、がつしりとして、やや硬い感じを与えるのに対して、引用意匠は肩のなだらかな、女性的で、柔らかな感じを与えるものであるから、両者の美感の有り様はその本質において明らかに相違する旨主張する。しかしながら、本願意匠及び引用意匠は、本件審決においてその形態の要旨を全体の基本的な構成態様及びその具体的な構成態様に分節して認定しているとおりのものであつて、原告主張のように、本願意匠を角形、引用意匠を卵形、丸形という両意匠とは全く異なる単純な形態に置き換えて、類型を全く異にするとの論は、両意匠に係る形態とは関係のない全く誤つた認定に基づくものであつて不当な見解である。なお、原告の右主張をあえて善解すれば、右主張は、本件審決認定のとおり、本願意匠が上辺と左辺の中央部をそれぞれわずかに直線状としたものであるのに対し、引用意匠が上辺の両隅の各角及び左辺の上下各角の弧がおのおのつながる態様で、上辺の中央部及び左辺の中央部をおのおの円弧状としたものであることによつて、本願意匠ものを角形と称し、引用意匠を卵形、丸形と称していると思われるが、その差異は、本件審決が認定しているとおり、結局のところ部分的な差異に帰し、両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものにすぎない。そして、原告は、角形と卵形、丸形との違いを根拠として、本願意匠が男性的云々、引用意匠が女性的云々との主観的な感想を導き、結果として、両者の美感の有り様が本質において相違するとの独自の見解を述べているが、これには何らの根拠もなく到底認めることができない。また、原告は、両意匠の具体的構成態様の差異(1)ないし(4)についての本件審決の認定の誤りを主張するが、右主張は、両意匠の意匠に係る形態の誤つた理解に基づいて両意匠の形態の差異を論ずるものであつて、到底認めることができない。
〔編註その二〕 本判決は、昭和六二年八月一八日東高民六判・昭和六一年(行ケ)二二〇号、本項・(177)と同一物品である接着テープホルダーの意匠に関するものであり、引用例の意匠を同一とするものである。
〔編註その三〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
別紙図面(二)
<省略>
別紙図面(三)
<省略>